【読書感想】「古代中国の刑罰」

古代中国の刑罰―髑髏が語るもの (中公新書)

洛陽南郊にある後漢時代の墓坑から出土した労役刑徒たちの多数の髑髏、埋葬者の履歴・刑名を刻んだ磚。西安郊外にある前漢景帝の陽陵付近から出土した刑具をつけた白骨遺体。湖北雲夢県睡虎地出土の秦代官吏の遺骨とおびただして竹簡。本書はこれらを地下からのメッセージとし、春秋公羊伝の伝義「春秋の義」を鑑に、秦漢時代の刑罰がいかなる体系をもち、いかに執行されたかを明らかにし、さらに西欧と中国の刑罰の差異にも及ぶ。

Amazon内容紹介より

本書でも触れられている「刑吏の社会史」と「江戸の刑罰」を以前に読んでいたので、その興味の延長線上で読みました。自分にことさら残虐な趣味はないとは思いますし、映像では血が流れるシーンも苦手であまり観たくないのですが、やはりどこかで残虐性への興味というものは持ち合わせているようで、こちらも新書の「死刑執行人サンソン」や「魔女狩り」なども読んでいます。その興味を正当化するつもりはありませんけれども、本書にも書かれているように人間にはどこかで残虐性に心惹かれるところがあるのかもしれません。

さて、本書は「古代中国の刑罰」です。古代から文明のトップランナーと言えるであろう中国ですし、その国の規模感からも想像を絶するような残虐で多様な刑罰がきっとあったのだろうな、という期待を寄せて本書を手に取ったことは間違いありません。しかし、その期待は裏切られることになるのですけれども、著者はその期待と裏切りを見越していて、第4章に「読者へのお詫び」として以下のように書いています。

しかしながら、第三章までのところで、そういった残酷刑は登場せず、その意味では一部の読者の期待を裏切ってしまったのではないかと恐れる。私とて、できれば残酷刑の数々を開陳し、解説してみたいのだが、こと秦漢時代の刑罰について言えば、それができないのである。史料不足、この分野の研究の未成熟からではない。実は秦漢時代には、死刑をはじめとする刑罰にとりあげて言うほどの残酷な刑がなかったのである。

「古代中国の刑罰」P181 第四章 ロンドン塔と万里の長城 より

これはまさか、ですよ。古代中国と言ったら、四肢切断とかだと標準的で、溶けた金属とか水銀とかを色々なところから流し込む、なども結構していそうではないですか。しかし、それは自分の偏見だったようです。もちろん、古代中国でも人はアッサリと死刑になっていますし、現代の基準で言えば十分に残酷ではありますけれども。しかし、古代中国*1での刑罰制度としては残酷な刑は存在せず、時代が下って征服異民族の影響を受けるようになって初めて残酷な刑が刑罰制度の中に出現する、とのことのようです。この部分はかなり読み応えがありました。

ただ、上記のような法体系、刑罰制度自体についての記述が多いので、残酷な事例を期待して読んでいる読者にとっては若干厳しい部分もあるのかな、と思いました。もちろん著者としてもその部分は理解しての上記引用部分であったのだと思いますが…。個人的には本書で書かれている内容とキャッチーな事例のバランスをもう少し何とかして欲しかった、と思う部分もありますけれども、だからこその中公新書。刺激的な事例で煽る訳でなく、落ち着いた論考に終始しているのはプラス評価と言えるでしょう。だからこそ「はじめに」のドラローシュの「レディー・ジェーングレーの処刑」についての部分は冒頭部分ではあるものの蛇足感が強かったです。あの部分があったので、第4章まで残酷な刑の登場を待ちわびた、みたいなところもありましたからね。

そんな訳で本書は残虐性を欲する心を満たす、という役目は果たせないとは思いますが、それを補ってあまりある興味深さを得ることができる読書になるかと思います。ただ、正直本書単独では面白さは半分以下になってしまうかと思いますので、「刑吏の社会史」と「江戸の刑罰」は一緒に読んで欲しいな、と思います。自分もこれからそちらを再読しようと思います。

*1:本書で言えば、秦漢時代

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