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【読書感想】「男と点と線」

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男と点と線
男と点と線 / 山崎ナオコーラ

妻の離婚資金でクアラルンプールに暮す老夫婦、男友達と卒業旅行でパリへ行く女子大生、上海出張に戸惑う32歳の会社員、東京で水族館デートをする高校生カップル、幼馴染にNYに誘われた42歳の独身男、彼氏にドタキャンされた友人と世界最南端の町へ行く28歳の小説家―この瞬間にも男と女は出会い繋がっていく。ささやかな日常の中で、愛と友情を再発見する6つの軽やかな物語。

Amazon内容紹介より

これまた山崎ナオコーラ氏の文庫です。時期的には「「『ジューシー』ってなんですか?」」の一作前にあたる作品のようですね。内容がどうこう、という話以前に著者の文章自体が好みですし、短編が多いのでサクサクと読み続けてしまいます。このまま断続的に全作読み続けてしまいそうな予感がしますね。

さて「男と点と線」です。本書は「慧眼」「スカートのすそをふんで歩く女」「邂逅」「膨張する話」「男と点と線」「物語の完結」の6つの物語で構成されています。上記の「Amazon内容紹介」でもわかる通り、それぞれの物語は世界各地で色々な組み合わせの人たちによるお話です[1]こう書いてしまうと、とてもてきとーな説明に聞こえますけれども…。そこには「ささやかな日常」とも書かれてはいましたが、個人的には舞台が「ささやかな日常」だったとは思いません。かなり特別な舞台ではあったと思います。ただし登場する人々は決して特別な人たちではなく、ささやかな日常を愛するような人々であったな、とは思いますね。それは著者のどの作品にも通じる要素であるように思いますし、それが自分が著者の作品を好んで読む理由かもしれません。

個人的に一番印象深かったお話は「邂逅」でした。舞台が不思議で怪しい雰囲気のある上海であることや、夢か現かわからないような存在の少年やそのお姉さんや駱駝が出てきたりするせいか「事件記者トトコ」や「ストレニュアス・ライフ」を連想してしまいました。どちらもとても好きな漫画ですけれども、連想するまで近い内容の話かというとそういう訳でもないので、自分でも連想した理由はよくわからないのですが、少し現実的な部分と虚構の入り乱れたところがある様子が魅力的なのは共通しているように思います。ちなみにお話の冒頭に出てくるサワタニさんが、その後どこかに出てくるに違いないと思いながら読み続けた結果、二度と現れなかったことにはガッカリしてしまいましたけれども…[2]サワタニさんの描写自身に魅力を感じた訳ではなくて、単に再び現れるという予感が外れたため。印象の強さは他のお話とのギャップがかなり大きかった点も関係したかもしれませんね。一番印象に残ったお話が一番好きなお話と同じでなかった点が残念な点でもありましたし、それがこの6つの物語を通しての印象となってしまった気がしてなりません。

また、その後に続く「膨張する話」は弓削田君の物言いが苦手であったことと[3]高校時代に似た雰囲気で会話をする男性の知人がいましたが、本当に苦手でしたね。「嫌い」というのとは少し違いますが…、海藤さんも何だか少し面倒臭そうな雰囲気のある印象だったので、お話自体にあまり乗れませんでした。高校生の頃ってこんな感じでしたかね…もう遠くになりすぎてしまったのか思い出せません。ただ弓道の袴姿をしている女性がとても魅力的なのはよくわかります。特に打ち起こしから大三にかけての流れがキレイな人は飽きることなく見続けられる、と今でも思いますね。

ところで表題作である「男と点と線」に関しては、何というかキレイな着地すぎる気がしました。映像で見ていれば、とても感動しそうな展開と結末ではありましたが、文章で読んでいると少しストレートすぎるかなあ、と思ってしまいましたね。個人的にはもう少し捻った関係性に変化してくれた方が面白かったのかな、と思えてしまいました。その点「慧眼」は登場する夫婦の何とも言えない間とテンポに引き込まれるものがあったように感じます。そういった間とテンポを作りあげることが出来なかった結果として「男と点と線」の男女はあの関係性に着地した、とも言えるのかもしれませんけれどもね。

そんな訳で「男と点と線」は落ち着いていて、どれもサクサクと読むことの出来きる物語であり、その文章は相変わらず好みではありました。ただ若干パンチが弱いというか、あまりにもサラッとした読み応えではあったのでもう少し重厚感というか考え込むようなポイントも欲しかったかな、と思う部分はありましたね。ともあれ、著者の他作品は機会を見付けて積極的に読み続けてみようと思います。

References

References
1 こう書いてしまうと、とてもてきとーな説明に聞こえますけれども…
2 サワタニさんの描写自身に魅力を感じた訳ではなくて、単に再び現れるという予感が外れたため
3 高校時代に似た雰囲気で会話をする男性の知人がいましたが、本当に苦手でしたね。「嫌い」というのとは少し違いますが…

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