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【漫画感想】「刻刻」 全8巻

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刻刻 1巻
刻刻 1巻 / 堀尾 省太

佑河樹里は失業中の28歳。家では父・貴文と兄・翼、じいさん三代のダメ男がヒマを持て余している。ある日、甥・真が翼とともに誘拐される。身の代金を渡す期限に間に合わなくなった時、じいさんは佑河家に代々伝わるという「止界術」を使い、世界を“止めた”。 だがあり得ないことに、救出に向かった先で樹里たちは自分たちの以外の“動く”人間に襲撃される。そしてパニックの中、異形の存在「管理人」が現れ、襲撃者の一人の頭を捻り潰した。謎の宗教団体・真純実愛会にさらわれた家族を救うため、樹里たちは祖父がひた隠しにしてきた術を使い森羅万象が止まった世界「止界」に飛び込む。 だが、誘拐犯たちのアジトに乗り込んだ樹里たちは、自分たちと同じく、止界の中で動ける者たちに遭遇する。 異形のモノが跋扈する世界を抜けて、元の日常に戻れるのか?

Amazon内容紹介より

ウィッチクラフトワークスからの流れで、1年ほど積んでいた刻刻の8巻を読もうとするも、さすがに8巻だけを読んでお話の流れを思い出せるはずもなく、1巻から通しで読み直してしまいました。やはり面白かったですね、刻刻。完結巻を1年も積んでしまったのは、ラスボス手前でゲームをプレイしなくなってしまうのと同じような理由です。割りとよくやります。完成度の高い作品の完結を目の前にするとやってしまう行動な気がします。

それにしても刻刻の作者である堀尾省太氏はこの漫画がデビュー作なんですよね。随分と以前に漫画賞を受賞していたようですが、それでもこの完成度、特に綺麗にお話を畳むことが出来るところからは次回作以降もきっとレベルの高い漫画が読めるであろうなあ、と期待してしまいます。2016年3月現在ではモーニング・ツーでゴールデンゴールドを連載しているようなので、単行本化を楽しみに待つことにしましょう[1]第1話だけ試し読みした感じだと刻刻よりもツラいお話になりそうな予感がするのですが…さて、どうなるでしょうか

さて、刻刻ですが止界と呼ばれる時間が止まった世界にまつわるお話です。最終的に止界のメカニズムは完全には解明されずに完結するのですが、ちょうど良い謎解き具合だったのではないでしょうか。全部を完全に説明しようとすると、齟齬が出てしまうことが多いですからね。お話には一種の特殊能力者が複数登場しますが、特殊能力バトルをする訳ではなく、あくまでもその能力を使っての一般人的な行動に終始するところにも、この漫画の中での現実感があり、とても良かったと思います。

それにしても6巻辺りの展開では真君の能力発動から、以降は真君による事態の解決に向かうのかと思ったのですが、真君をその後アッサリと退場させてしまったのには驚きましたね。主人公たちは事なかれ主義の問題先送り思考の一家で、それが問題を大きくした、という描かれ方がなされていますが、現役世代の代表として樹里さんが自分の世代で決着をつけ(ようとし)た、というところには感じるものがありました[2]解決法とすれば、真君の能力覚醒を待つ、みたいなことも考えられなくはなかったと思うのですよ…。また、祖父世代が『最後の仕事(つめ)』を任せられるところや、父親世代が誰も望まない介入を突然行って、結果としてよくわからないうちに責任の一旦を引き受けて去っていく、みたいなところはとても現代社会的だな、と思ってしまいました。ちなみにこの漫画の中で一番異彩を放っていたのは父親の貴文さんでしたね。凡庸な一般人の恐ろしさ、みたいなものを見事に表現していたように思います。

気になったのは、潮見さんのその後が描かれていなかった点と最終的な解決者が突然物語の外からやってきたことですかね。潮見さんは野心を持つ冷静で合理的な男性の象徴として存在していたと思うのですが[3]全体から見るととても希少な存在ですよね…、彼がこの後にどう振る舞っていくのか、というところは同性として結構気になったのですよね。止界による危機は去った訳ですし特に敵対する人物もいないとなると、野心を持つ人間とすれば、それを利用したくなると思うのですが、この一件で懲りてしまったのでしょうか。個人的に感じた人物像としては、帰還後も野心のために何かしらを利用しようとする潮見さんを想像したのですが、どうなのでしょうかね。まあ、その辺りを描いてしまうと、お話としての完成度は下がってしまうのかもしれませんけれども…。そして突然の解決者登場ですが、これしか樹里さんも含めた納得の幕切れにすることは出来なかったのかなあ、とモヤりました。この形が一番ハッピーエンドだろうな、という予感はしますがね。

以上のように若干気になる点はあるものの、全体とすればかなり完成度が高く、傑作漫画と言って良いように思います。個人的には何よりもこのタイミングでしっかりとお話を畳んだというところには感動すら覚えました。「時かけ」的な時間超越物語が好きな方にはたまらないお話でしょう。派手なアクションやスーパーマン的な人間が登場しなくても楽しめる方にはかなりオススメです。

References

References
1 第1話だけ試し読みした感じだと刻刻よりもツラいお話になりそうな予感がするのですが…さて、どうなるでしょうか
2 解決法とすれば、真君の能力覚醒を待つ、みたいなことも考えられなくはなかったと思うのですよ…
3 全体から見るととても希少な存在ですよね…

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