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【読書感想】「ペンギンの憂鬱」【新潮クレスト・ブックス】

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【読書感想】ペンギンの憂鬱 / アンドレイ・クルコフ 著
ペンギンの憂鬱 / アンドレイ・クルコフ 著 沼野恭子 訳

恋人に去られた孤独なヴィクトルは、憂鬱症のペンギンと暮らす売れない小説家。生活のために新聞の死亡記事を書く仕事を始めたが、そのうちまだ生きている大物政治家や財界人や軍人たちの「追悼記事」をあらかじめ書いておく仕事を頼まれ、やがてその大物たちが次々に死んでいく。舞台はソ連崩壊後の新生国家ウクライナの首都キエフ。ヴィクトルの身辺にも不穏な影がちらつく。そしてペンギンの運命は…。欧米各国で翻訳され絶大な賞賛と人気を得た、不条理で物語にみちた長編小説。

Amazon 内容紹介より

非常に読みやすい作品でした。選んだ時は意図はしていませんでしたが[1]本書購入時は2022年2月よりも前でした、ソ連崩壊後のウクライナが舞台のお話です。作者の『アンドレイ・クルコフ』氏はロシア語で書くウクライナの作家だということ。新潮クレスト・ブックスからは『大統領の最後の恋』という作品も出版されています。邦訳されていない作品も多数あるようですね。『ウクライナ日記』も近々読みたいです。

今、ウクライナを題材にした作品を読むと政治的・社会的な意識を強く感じてしまうかと憂慮しましたが、そのような考えは不要だったと思える内容のエンターテイメント色の強い作品でした。主人公『ヴィクトル』が追悼記事を書いた人物が次々に死んでいく、という設定は漫画にありそうですよね。またペンギン『ミーシャ』の憂鬱なのにユーモラスな様は、作品全体の空気感をそのまま表現していたように思えます。

また作品内で起きている事象は相当荒々しく暴力的なはずなのに、直接的な描写はないので読んでいてシンドくなることはありませんでした。想像するにロシア[2]もしくはソ連的な恐怖というのはこういう感じなのかな、と思いました。ちょっとした知人がいつの間にかいなくなっていて、誰もその理由を知らない…みたいな。深く考えると物凄く恐ろしいのに割りとよく起こることで、「まあ、そういうものか」で済ませてしまうような…。もちろんロシアに限った話ではなくて戦前日本などでも珍しいことではなかったのでしょうけれども。

ちなみにこの作品の原著は1996年の出版なので既に30年弱前の作品です。ソ連崩壊後すぐのウクライナが舞台なので、2022年現在の事象が起きる前のキエフなどはまったく印象が違っていたことだろうなと思います。ただ、今後こういった荒々しい世界が再び戻ってきてしまう、もしくはもっと酷い状況が続いてしまうだろうことを考えると読了後、憂鬱になってしまいました。

そんな訳で2022年に改めて読むべき、という内容の作品という訳ではないと思います。ただロシアを含めた旧ソ連圏の30年弱前の空気感が伝わってくる、というのはあるのかもしれません。そしてそういったことが2022年の出来事の要因の1つなのかもしれないな、と想像できなくもないです。しかし、そういったことを全部抜きにして読んでいて面白いと単純に思える作品でした。オススメです。

「残るか脱出か、どちらが危険かわからない」ウクライナの作家が寄稿:朝日新聞デジタル
「キエフにとどまるべきか、脱出を試みるべきか。いまとなってはどちらがより危険なのかわからない」――。ウクライナの国民的作家で、約40カ国語に翻訳された小説「ペンギンの憂鬱(ゆううつ)」などで知られる…
「降伏とはロシアの人々になること」ウクライナ国民的作家の寄稿全文:朝日新聞デジタル
■アンドレイ・クルコフさん|作家(寄稿) ロシア軍の侵攻を受け、ウクライナの国民的作家、アンドレイ・クルコフ氏が、朝日新聞に緊急寄稿した。

References

References
1 本書購入時は2022年2月よりも前でした
2 もしくはソ連

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