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【漫画感想】「宙に参る」2巻

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宙に参る 2巻 / 肋骨凹介
宙に参る 2巻 / 肋骨凹介

生ける者の脳以外なら挿げ替えが効く世界のお話。鵯ソラの持つ、音声によるハッキング技術”呪文”を手に入れるべく、巨大メーカー・ダウチテクノの技研局長より送り込まれた二人の人物。そのうちの一人、普通の子供にしか見えないウォンには知られざる経歴があり…。人工知能の寿命とは?稀代のロックバンドが遺した幻の楽曲?医療の発達やテクノロジーの進化が生み出す新しいドラマの数々。

Amazon内容紹介より

『宙に参る』2巻の初版は2021年8月。1巻の感想文でも書きましたが、帯には『次にくるマンガ大賞2019-2020-2021 [Webマンガ部門] 3年連続ノミネート』と書いてありました。あまり読んでいる漫画が世間的に流行っているかどうかを気にしたことはありませんが、「次にくる」と言いたくなるタイプの漫画であることは理解できます。かなり好きな漫画なので「次にくる」ではなく、大ヒット漫画と呼ばれるようになって欲しいですね。

さて『宙に参る』2巻です。何やら怪しげな登場人物も増えてきました。怪しげな方々も画風の影響なのか、クリティカルに怖そうな感じはなく、少し抜けているというか掴みどころのない部分があるところに何とも言えない魅力があります。特に『暮石ハトス』さんが第16話『IN RICE FIELD』で見せてくれた「田中さん偽名騒動」は3巻への布石的にもその微妙な空気感の伝え方的にも大好物でした。こういった雰囲気は漫画全体でも共通しているようなところがあるように思います。基本的にはSFなのでジャンルの素養というか知識が必要になる部分も少なからず存在するのですけれども、ポイントポイントのSF的素養や知識はわからなくても「なんとなく全体的に楽しめるからそれほど気にしなくて良い」というような態度で読むことも問題とならない気軽さが強みとも言える漫画になっているといえるでしょう。

また第11話『不滅の超新星』は過去に故人となっているはずのロックバンドの作品をめぐるお話になっていますが、このお話自体はメインのストーリーと必ずしも関係ないサイドストーリー的な部分になっているものの、そのお話の仕掛けでメインストーリーに進捗があったり、またただ単純にこのサイドストーリー自体がとても面白い話だったりと、何となくではありますが、個人的には今のところ『宙に参る』という漫画を象徴するようなお話ではなかったかなあ、と思いました[1]2巻時点で象徴も何もないとも思いますが…。巻末に付いているSF的著作権解釈を描いている11.5話『著しくあなたの隣に』も含めて、自分が音楽好きなところもありそうですけれども、大好きなお話です。

ちなみに自分はこのお話からバンドの存在感などから考えると『The Beatles』の『フリー・アズ・・バード』を連想しますけれども、バンド全体として死後に「新曲を狙って」リリースすることを行っているバンドはまだ存在しないと思いますが、そろそろ現実に出てきそうな予感はしますよね[2]もちろん、自分が知らないだけでそういった楽曲が既にあるのかもしれませんが…。ただ正直、最近の音楽視聴のメインストリームではバンドの新旧やアーティスト・ミュージシャンの生死よりも楽曲単体[3]楽曲どころか、場合によってはフレーズ毎かもしれませんけれどもが前面にきている部分はあるように感じるので、楽曲提供側の意図とは関係なく単に受け取る側の問題として、似たような状況は起こりそうな気がします。もちろん、そういった状況はこのお話に登場した『クイヌ・シア』さんの幼少期の悲しい思い出のような出来事を引き起こしていく未来をも予感させてしまう訳ですが…。

それにしても『宙二朗』君、本当に可愛いです。Amazonさんの限定特典で付いてきた「製作覚え書き」の裏表紙に描かれているセミを捕まえている『宙二朗』君の可愛さには特にやられました。頭部に汗をかくという漫画的表現があったり、突っ伏したりする動作はもちろんありますが、基本的に表情が変わらない中でも困惑や葛藤みたいな感情が伝わってくるのが凄いところだなあ、と思います。また『宙二朗』君が『ひよどりソラ』さんに向かって「ソラえも~ん!」と呼びかけるシーンがありますけれども、この辺で『鵯ソラ』さんが『宙二朗』君をどういう教育、どうやって学習させているのかを想像してしまって楽しくなります。『四次元ポケット』や細かい所はともかく、基本的な部分で『ドラえもん』のアウトライン自体は実現できてしまいそうな未来において『ドラえもん』という古典がどう存在してくれるのか、個人的には結構気になったり…。

そんな訳で『宙に参る』2巻は1巻に引き続きSF好きにはかなり刺さる作品だと思います。かなり濃密なSF作品ではありますが、登場人物たちの描写自体がSFの世界にしっかりと生きていることを感じさせてくれるので、SF文脈を切り離しても十分に楽しめる漫画だと思います。2022年10月28日に3巻も発売されます。とてもオススメ。

References

References
1 2巻時点で象徴も何もないとも思いますが…
2 もちろん、自分が知らないだけでそういった楽曲が既にあるのかもしれませんが…
3 楽曲どころか、場合によってはフレーズ毎かもしれませんけれども

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