AIがごく自然に人を愛し、人から愛される時代のお話。ソラと宙二郎を乗せた長期渡航型宇宙船は、いよいよ第2寄港地「ジヒ」へ。モド・サンコ教の教義と本殿建立にまつわる“面白い話”とは?市民に愛され市民を愛しすぎたバスガイドが辿った運命は?宇宙技術の進歩の先に待つアーティフィシャルで愛しい世界。単行本描き下ろしコラム&スペシャルエピソードを収録。大充実の第3巻!
Amazon内容紹介より
『宙に参る』3巻の初版は2022年11月。帯に「『概食産業』著者が贈る傑作近未来SF」と書いてありましたが、自分としてはどちらかというと『概食産業』を知りませんでした。いつの間にか読み切り漫画が発表されていたのですね。読み切り漫画もいくつか溜まったら短編集としてぜひぜひ単行本化して欲しいです。そしてお話の中に出てくる『幼虫屋』の店長の素性も気になりまくるので『概食産業』の続きも読みたいです。ちなみに『概食産業』を読んでみて『宙に参る』はかなり読者を選ばない漫画なのだなあ、と改めて思いました。
さて『宙に参る』3巻です。3巻ではリンジン[1]いわゆるアンドロイドのバスガイドである『アディ』さんが、いわゆる寿命を迎えるというお話である『限界御礼流星群像劇』その1からその3がメインになっていて、その周辺にお話が散りばめられている、という構造でした。『鵯ソラ』さんと緩やかに敵対[2]敵対とまで言っていいのかはわかりませんが…している面々に関係する人々や『鵯ソラ』さんと『宙二朗』君の友人などもかなり複雑に絡み合っていて、宇宙船内とその寄港地でのお話とはいえ、宇宙が舞台なのに世界が広いのか狭いのかわからない感じになっています。ただ、その壮大ではない感じが、逆にこの漫画の読みやすさの理由の一つになっているのかもしれません。あの惑星が~とか、その銀河が~とか言った話題が(今のところ)ないので現代の地球上に生活する自分でも想像しやすいです。ちなみに、P68では『アディ』さんのアイドル的な活動の話の中で、2巻に登場した『C44』というバンドがメンバーの死後になって発表した『センチュリー・フライヤー』というスコアのみが存在する1つのジャンルを築いた楽曲を『アディ』さんバージョンで発売しているなど、以前の各話との絡みもしっかりとしてくれています。この辺りはお話の規模が壮大ではないにもかかわらず[3]とはいえ、『センチュリー・フライヤー』のお話はかなり壮大さを感じますが…、『宙に参る』の世界の広がりと複雑さがしっかりと表現されていることにつながっているのでしょうね。ちなみにその『アディ』さんのお話は物凄く良かったです。自分の表現力・語彙力の問題で「良かった」以上のことは書けませんけれども、このお話だけでも多くの人に読まれて欲しいな、と思いました。『アディ』さんの「愛は満たされたのです」というセリフ、かなりグッときました。
それにしても『宙二朗』君が相変わらずカワイイです。お話の中に登場してくる『宙二朗』君ももちろんカワイイですけれども、各話間にはさまれた、お話に登場する漫画内の固有名詞について書かれたコラム的な文章に添えられているコスプレをした『宙二朗』君がたまりません。ぜひフィギュア化して欲しいです。実はどこかで話が進んでいて…とかだと嬉しいのですが。まあそんなに都合よくいかないとも思うので、M5Stackとか使って、身体が動かなくても顔は変化させられる『宙二朗』君とか作ってみたくなりますね。もう誰か作っていたりしないかな…。ちなみにその『宙二朗』君ですが、お話の中で『マヤ』君へのおわびの品として「いちご大福汁」を差し出していますけれども「AIがごく自然に人を愛し、人から愛される時代」には「いちご大福汁」とやらがブリックパック的な状態で飲むことができる世界になっているのですね。未来恐い[4] … Continue reading。『宙に参る』はこういった小ネタというか、ちょっとトボけたやり取りや物品の登場頻度が自分の好みとあっているところが嬉しいです。
ところで『宙二朗』君のかわいさは間違いありませんが、その親である『鵯ソラ』さんの「魔女」とも呼ばれている能力は少し恐くなってきました[5]まあ2巻の時点での方が、かなり危険な感じではありましたが…。同時に『鵯ソラ』さんが単に夫の故郷である地球へ向かうだけのための旅をしているのか、その目的がちょっとよくわからなくなりました。元々色々なことに首を突っ込みたがる性分なのか、それとも何かしらの目的があるのか…。今のところ、どちらかといえば『鵯ソラ』さんの特殊能力の強力さが際立って見えていますけれども、それに対する人々、特に『又肩アカシ』さん辺りも切れ者すぎて恐い感じがあります。反対に『暮石ハトス』さんのような引き立て役に見えてしまっているキャラクターの存在は個人的には少しホッとします。『暮石ハトス』さん、明らかに善い人そうなのであまり恐い目にはあって欲しくはないなあ、と今から心配になってしまいます。まあ全体的には優しい世界なのでそこまで酷いことにはならないだろうとは予想しているのですが、どうなることやらです。
そんな訳で『宙に参る』3巻は相変わらずSF好きにはかなり刺さる作品だと思います。ただし、これは1,2巻の感想から繰り返していることですけれども、このお話を読むために必ずしもSF文脈を必要としない漫画だとも思います。普段SF創作物に親しんでいない方でも、それほど気になることなく読めるしっかりとしたお話です。いわゆる日常系ののんびりしただけのお話ではありませんが、SF世界の日常の空気感を存分に味わうことのできる漫画です。引き続き、とてもオススメ。
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