魔女狩りとホロコーストの連続性とは?ヒトラー・カルトは、キリスト教とゲルマン文化の確執から誕生した!異端狩り、ユダヤ人狩りや魔女狩りの悲劇は、中世から現代にいたるまで、なぜ何度も繰り返されたのか? その真相をカルト発生の観点から読み解く。
Amazon内容紹介より
「感染症は世界史を動かす」に本書の言及があったので、こちらも長いこと積んでありましたが、読むことにしました。「感染症は世界史を動かす」ではペストを始めとして鞭打ち苦行など、いくつかの項目にまたがって、本書との関連があったので続けての読書としての満足度は高いものになりました。ちなみに本書もタイトルで買って積んであった本なのは間違いないです。
さて「魔女とカルトとドイツ史」ですが、そのタイトルの通り、基本的にはドイツ史をメインとして書かれています。魔女についての記述はもちろんたくさんありますけれども、魔女狩りのことが詳細に書かれているというのではなく、あくまでもドイツ史の一部としてその時代でのカルトの表出の仕方として魔女・魔女狩りが起こったという形での触れられ方です。ですので、魔女狩りをメインとして期待してしまうと少し弱く感じてしまうかもしれません。もちろん、魔女狩りに関しての内容を読みたい方であれば、本書で論じられているように魔女狩りと他の時代のカルト的な現象との類似性みたいなものには、かなりの興味をひかれるかと思いますので、問題にはならないでしょうけれども…。
また本書はドイツの通史をそれほど知らなくてもあまり問題なく読むことができるかと思います。かく言う自分もドイツの歴史を知っているか、と言われれば、ほとんど知りませんけれども問題なく読むことが出来ましたしね。むしろ本書を読むことでドイツの通史の本を読みたくなりました。かなり以前に「物語 ドイツの歴史」など、いくつかは読んでいるのですけれどもね[1]いくつかの本を読んでいても知識として残っていないというのは本当に悲しいことです…。以前もどこかで書きましたが、こうやって読みたい本が連なっていく感じはとても好きです。
本書で語られている事例としては、どれも興味深いことばかりではありますが、自分はハーメルンの笛吹き男の事例が特に興味深く感じました。お話の細かいところはともかく、あらすじであれば多くの人が知っているような内容で、どちらかと言うと伝説的なお話、という感覚の方が近い出来事という認識でいましたけれども、本書を読んでみるとどちらかと言うと、お話の内容の大半の部分が実際にあった出来事であったのだろうなあ、と考えるようになりました。何もない状態であれば、100人単位の人を連れて歩く、というのはそう簡単なことではないでしょうけれども、トランス状態になったような人々であれば、しかもそれが子どもたちであれば、100人単位であってもそれほど難しくないのかもしれません。本書でも書かれている通り、現代となってはハーメルンの笛吹き男の事実、というものが確実となるのは難しいことなのかもしれませんけれど、著者の支持するお話の原点とも言える出来事に関しての記述は、かなり納得できるものでした。
ところで、本書はドイツ史に通底するものとして各カルト的な事例を挙げ、そして最後にナチスについて書いている訳ですけれども、個人的にはその部分はまだまだ何とも言えない部分のようにも感じられます。ナチスと各事例との共通点などもかなりの数が挙げられていて、自分はなるほどなあ、と少し納得しながら読んではいたのですけれども、だとすると、過去の反省とか関係なく、寄せては返す波のように、いつかは似たようなことが繰り返されてしまうだけのような気がしてしまうのですよね。著者と同じように自分も、そんなことが繰り返されることがないと信じていますけれども、そうするとナチス以降に過去のドイツからは逸脱した深いところでの文化的な流れがなければならないようにも感じられて、そういうったものが特にない現状であれば、各事例ごとの関連付けを深めないか、将来に渡っても同様のことが起こる、とするしかないように思えてしまうのです。「歴史は繰り返す」ものなのだとすれば、同様のことが繰り返される方がもしかしたら自然なのかもしれませんけれどもね…。
そんな訳で「魔女とカルトとドイツ史」はドイツの歴史に対しての興味が再び湧いてくるような本でした。少しキャッチーさが売りのようなタイトルにはなっていますが[2]そのタイトルに引っ張られて買っている訳ですけど…、実際はかなりしっかりとした落ち着いた内容だといえるでしょう。文章も読みにくいところがなく、良書だと思いますよ。
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