アリジゴク(蟻地獄)はウスバカゲロウ類の幼虫だ。砂の中にすり鉢状の巣を掘って、餌が落ち込んでくるのをひたすら待つ―そんなイメージで調査を始めた著者は、多種多様なアリジゴクに触れるうちにその魅力から逃れられなくなる。巣穴を掘るのは実は少数派であった。さらに巣穴から溝を伸ばして小動物を導く巧妙な仕掛けを使う種も発見された。日本の浜辺からオーストラリアの内陸部まで、砂の中にひそむ魔術師の生態と行動を追う。
Amazon内容紹介より
アリジゴク、という名前はかなりの知名度があるでしょうし、自分もかなり幼い頃から知っていたように思いますね。ですけれどもその実、名前以外はほとんど何も知らない、と言ってよい生き物とも言えるかもしれません。自分にはすり鉢状の罠でアリを捕えるウスバカゲロウの幼虫、というくらいの漠然とした認識しかありませんでしたね。そんなアリジゴクに関して、タイトルを眺めていたら少し知りたくなったので読んでみました。
さて「砂の魔術師アリジゴク」です。幼い頃に数回はアリジゴクを見た記憶がありますけれども、本当に数える程のことですね。「アリジゴク」という言葉の記憶とすれば、どちらかと言えば、プロゴルファー猿に由来するものの方が強く残っている印象です。どんな文脈で登場した言葉なのかは覚えていませんけれども…。その程度の情報しか持ち合わせていない生き物が他にもたくさんいることは確かではあるのですが、とても気になるのは「アリジゴク」という名前に何となく魅力的な響きがあるからかもしれません。
ただ大抵どんな材質でも、どんな角度であっても自由に歩き回ることが出来るアリが捕まってしまうアリジゴクの罠[1]本書によると完全に捕まってしまうアリは約半数程度のようですけれども、そしてその様から名付けられたであろうアリジゴクという名前には惹かれてしまっても仕方がないでしょう。その成虫である「ウスバカゲロウ」という名前もなかなか魅力的ではあると思いますけれども、アリジゴクというネーミングには勝てるとは思えません。本書ではその魅力的な生き物であるアリジゴクがたっぷりと、そしてより魅力的に感じるように読むことができました。また読んでいると著者は本当にアリジゴクのことが大好きなのだなあ、と変な感動すら感じられます[2]大好き、とかそんな単純な言葉では済ませられないものがきっとあるのだと思いますけれども…。
本書を読んでいて気になった点としては、アリジゴクの持つ毒液に関しての記述の部分でしょうか。2000年初版の本であることが理由なのかは不明ですけれども、毒液が何由来であるのかは現在Wikipediaに記載されている程の内容もありませんでした。毒性が強くフグ毒テトロドトキシンの130倍である、ということは書いてありましたが、その毒の注入量や餌となる生き物への作用自体も不明なことがかなり多かったようで、気になりました。本書の出版からそろそろ20年経ちますから、アリジゴク研究の現在地点の入門書的な本も読んでみたくなりましたね。
ところで読書後にWikipediaを読んで気付きましたが「アリジゴクが羽化する時までは糞だけではなくて尿も排泄しない」という通説を小学生が発見で覆した、というニュースが確かにありましたね。2010年のニュースだそうですけれども、本書の著者のようなアリジゴクをずっと観察しているような方が見付けられない発見を小学生が成し遂げる訳ですから、通説とか定説のようなものへの態度は本当に難しいな、とつくづく思わされますね。
そんな訳で「砂の魔術師アリジゴク」は、この辺りにいるかな?と、軒下の砂地の辺りを観察してみたくなるくらいにアリジゴクのことを少し好きになってしまうような本でした。著者のアリジゴクへ対する想いが詰まっていて心地よかったです。
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