中世ヨーロッパ全人口の九割以上は農村に生きた。村で働き、結婚し、エールを飲み、あるいは罪を犯し、教会へ行き、子をなし、病気になり、死んでいった。舞台は十三世紀後半イングランドの農村、エルトン。飢饉や黒死病、修道院解散や囲い込みに苦しみながら、村という共同体にあって、人々はいかに生き抜いたか。文字記録と考古学的発見から生き生きと描き出す。
Amazon内容紹介より
随分と以前から読みたかった「中世ヨーロッパの○○の生活」というシリーズの一冊ですね[1]他には城や都市の生活もあります。少し前に「中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク」を読んでからというもの、中世ヨーロッパに関する本が以前にも増してとても気になり出したので、読むことにしました。シリーズの中からは、何となく人間の暮らしの基本は農村かな、という気持ちで一番初めに手に取ってみただけなので、特に深い意味はありません。
さて「中世ヨーロッパの農村の生活」です。もう本当にタイトルそのままの内容の本でした。13世紀から14世紀頃のイングランドのエルトンという農村を主な舞台として、そこでの人々の営みが記録を元にして蘇っています。どうしても幼い頃から色々なところで読み聞きしてきた「中世ヨーロッパ=暗黒の時代」というイメージがなくならないので、科学・技術・医療など以外は想像よりも大して近代と変わらない、感覚的には「普通」の生活が繰り広げられています。そういう意味では刺激的な記述は少なく感じられる部分もありますけれども、現代の感覚が通用するように思える分、当時の生活が生々しく実感出来る、という気持ちにもなりました。
ちなみに「中世ヨーロッパの農村の生活」は以下の各章で構成されています。
- プロローグ エルトン
- 第一章 農村の誕生
- 第二章 エルトン誕生
- 第三章 領主
- 第四章 村人たち-その顔ぶれ
- 第五章 村人たち-その生活
- 第六章 結婚と家族
- 第七章 働く農村
- 第八章 教区
- 第九章 村の司法
- 第十章 過ぎゆく中世
各章、30ページ前後でまとまっているので、サラッと読むことが出来ると思います。ただ、当時の記録を元にして書かれているので、自分はよくありそうな名前が続く時には特に1人1人の名前に意味はないにしても、「さっきも出てきた名前だな…」などと、勝手にストーリーを付けてしまいたくなってしまったりしました。ここに登場する内容に上手にストーリーを重ねることが出来る人たちが、きっとお話を創っていくのでしょうね。
農村というと、農耕を獲得した人類がわりと初期に産み出していた共同体のように感じていましたが、本書を読むとそれほど古くはないことを思い知らされます。もちろん本書の第一章である「農村の誕生」にも書かれている通り、「村」というものの定義自体に色々と議論があるようではありますけれども。本書では「村」のキーワードとして「永続性」「多様性」「組織」「共同体」を挙げていますが、各章でこれらのキーワードを感じさせられる記述があります。特に「組織」という面では、中世ヨーロッパのただ貧困にあえぐ農民と思っていた人たちが、その楽ではない生活を甘受しながらも虐げられるだけではなく、強かさを持って「村」を構成していたことを随所から感じられて興味深かったです。
ところで個人的には第六章の結婚と家族を一番興味深く読みました。単純に今の自分が結婚と家族について敏感になっている時期なだけなのかもしれませんけれども、当時の家族というと、拡大家族がほとんどなのかな、と思っていたのですが、考えていたよりも小さい規模の核家族が一般的であったことが定説になっているようです。イメージとしては戦前戦後の日本の子沢山を想像してしまうところではあるのですけれども、よくよく考えればマンパワーとしては人口が多い方が良い面もありますが、限りある農地や食糧問題のことを考えれば、それほど多くの人員を抱えることが出来ないのは当然でもありますよね。結婚に関しても、また老後を含めた家族関係に関しても現代に通ずるところもあったりなかったりで、人が生きるということは似たような問題が起こるのが当然なのだな、と感じました。
そんな訳で「中世ヨーロッパの農村の生活」は、自分の頭の中で勝手にイメージしていた中世ヨーロッパの農村がしっかりと上書きされた、と感じる読書となりました。「中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク」に登場した職業の人々は「農村」では登場しなかったので、引き続き「城」や「都市」の生活の本も読んでみたいと思います。
References
↑1 | 他には城や都市の生活もあります |
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