比類ない辛さが魅力のトウガラシ。原産地の中南米からヨーロッパに伝わった当初は「食べると死ぬ」とまで言われた。だが、わずか五百年のうちに全世界の人々を魅了するに至った。ピーマンやパプリカもトウガラシから生まれた。アンデスの多様な野生トウガラシ、インドのカレー、四川の豆板醤、朝鮮半島のキムチ、日本の京野菜…。各地を訪ね、世界中に「食卓革命」を起こした香辛料の伝播の歴史と食文化を紹介する。
Amazon内容紹介より
食べ物+歴史の本は大好物です。日本でトウガラシ、と言うと純粋に食べ物と分類するのだろうか、という気分にはなってしまいますけれども、よくよく考えるとピーマンやパプリカなどもトウガラシの栽培品種の1つではありますからね。香辛料としてだけではなく、食べ物としてもかなり身近といえるので、読みたくなって当然だな、と思いながら手にしました。
さて「トウガラシの世界史」です。少し前に再読した「パスタでたどるイタリア史」と関連があるとも言えるかと思います。何せイタリアにおけるパスタを現在の形に発展させてきたものの内のかなりの部分を占めるであろう中南米原産の野菜の1つがトウガラシですからね。またトマトやジャガイモと並んで旧大陸の食卓事情に大きく影響した食べ物の1つがトウガラシであることは間違いないでしょう。そして本書もその点について原産地である中南米から東回りで極東に至る道を書いてあります。ちなみに「トウガラシの世界史」は以下の各章によって構成されています。
- 第一章 トウガラシの「発見」
- 第二章 野生種から栽培種へ-中南米
- 第三章 コショウからトウガラシへ-ヨーロッパ
- 第四章 奴隷制が変えた食文化-アフリカ
- 第五章 トウガラシのない料理なんて-東南アジア・南アジア
- 第六章 トウガラシの「ホット・スポット」-中国
- 第七章 「トウガラシ革命」-韓国
- 第八章 七味から激辛へ-日本
- 終章 トウガラシの魅力-むすびにかえて
トウガラシが中南米原産であることは、トマトやジャガイモと並んで、そこそこ有名な話だと思いますが、その歴史の新しさと裏腹に様々な国や民族の食にかなりの影響を与えている食べ物の1つであることが本書を読むとよくわかります。韓国のキムチは本書を読むまでもなく思い付くところですけれども、同じアジアにはネパールやブータンのようにトウガラシで真っ赤に染まったような食生活をしている国も少なくないようで、本書を読む限り、トウガラシ以前の食生活を振り返った時に、そのギャップにはかなり驚かされそうですね。
それにしても鳥がトウガラシを平気で食べる、というのには驚きました。トウガラシの辛味成分であるカプサイシンの受容体が鳥には存在しない、というのがその理由のようです。ただカラス対策でトウガラシ成分、つまりはカプサイシンが使われている商品があったような気がするので、それらは何の効果を狙って作られたのかよくわからなくなりそうな…。そりゃあカラスには効かないでゴミ漁りに励まれる訳ですよね。
ところでトウガラシはビタミンCをはじめとして、豊富にビタミン類が含まれているとのことです。以前読んで感想文も書いた「世界史を変えた薬」に登場した「セント=ジェルジ」は牛の副腎からビタミンCを発見してノーベル生理学・医学賞を受賞したとのことでしたが、本書によると研究のためにはもっと多くのビタミンCが必要だったところに、ハンガリーでトウガラシから生み出されたパプリカによってビタミンCを多く抽出することが可能になったことが重要なことだったようです。ビタミンC不足で発症する壊血病のリスクを抱えながらの大航海時代によって[1]一部の船乗りの間では、壊血病になりにくくなる食品の存在が理解されていたようではありますけれども…、中南米からトウガラシが旧大陸にもたらされ、そのトウガラシからパプリカが生み出されて、そこから壊血病を予防するビタミンCを研究することが出来るようになる、という流れにはとてもドラマチックなものを感じてしまいました。
そんな訳で「トウガラシの世界史」は新大陸からもたらされたトウガラシによって、各国・各民族の食卓事情がダイナミックに変化していく様を感じさせてくれる読書となりました。穀類やイモ類ではない、主食にはならない食べ物によっても、これだけの変化がもたらされる驚きがありました。こうなってくると同じ南米原産であるトマトやジャガイモについての歴史も読んでみたくなりますね。確か積んであったはずですので…。
References
↑1 | 一部の船乗りの間では、壊血病になりにくくなる食品の存在が理解されていたようではありますけれども… |
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