憧れの人気写真家ニキのアシスタントになったオレ。絶えず命令口調の傲慢な彼女に、オレは公私ともに振り回される。だがオレは一歳年下のニキとつきあうことになる。そして仕事の顔とは全く別の、恋に不器用なニキを知ることになって…格差恋愛に揺れる二人を描く、『人のセックスを笑うな』以来の恋愛小説。
Amazon内容紹介より
ここのところ連続して手に取っている山崎ナオコーラ氏の著作です。読んだものの中では比較的最近の著作になるかと思います。それでも初出から6年経っていますけれども。表紙が「ニキ」のイメージなのかな、と思いながら読み始めました。個人的にはこういう感じの眼つきが鋭い女性は好きなので、読みたい欲求が増しましたね。
さて「ニキの屈辱」です。読み終わった時にまず頭に浮かんだのは「映画になりそうなお話だなあ」ということでした。「人のセックスを笑うな」も映画になっている著者ですから、ある意味で当然と言えるのかもしれませんけれども、それでもかなり映画[1]というかオシャレ系邦画になりそうな雰囲気の漂っているタイプの恋愛のお話なので、なぜ映画にならなかったのかな、とすら思ってしまいましたね。どこにそう感じるのかと言われると難しいのですが、それ程登場人物と場面転換が多くなく、淡い恋愛を描いているところなどがそれに当たるでしょうか。
ところで本書のタイトルは「屈辱」という強い言葉が使われていますが、それがどこから来たのかは本編のラストシーンで語られます。確かに「屈辱」という強い言葉を使うこと自体がほとんどないので、使う機会はこの本編で語られた文脈くらいだなあ、とは思うのですけれども、それにしてもそんな言葉がスラッと出てくるだなんてニキは想像以上にインテリなのでしょうかね。「加賀美」は読書が好きなようですし、少しインテリ風に感じる部分もありますけれども、ニキはどちらかと言うと写真にすべてを懸けてきたような女性で、しかもまだ若いですから、あまり「屈辱」の元になった出来事に関する知識もなさそうなのですが…。
また「屈辱」の由来から考えると、このお話の後にはニキが加賀美を見返すような状況がありえるのかもしれないなあ、とも想像しました[2]ニキは見返すことを望むようなタイプではないと思いましたけれども。実際にこのお話の中で人間的に成長したのは加賀美ではなくニキの方でしょうし、元々の写真家としての才能に疑いはないはずですから風向きが変われば、新たなステージへ登り詰めることが出来るのかもしれませんよね。対して加賀美は写真家としてニキから成長のチャンスを得て、それをモノにしましたが、人間的に成長したかというとそういう訳でもなく、成長の刺激の元になったニキからは離れてしまったので、今後の成長には新たに「何か」を見付けないといけないですからね。
それにしても、加賀美のニキや恐らく女性一般に対する態度が、世の平均と思われる男性のスタンスをある意味で的確に表現しているなあ、と思いました。一見、ジェンダー・フリーなスタンスを装っている態度や、またそれを自分自身ではジェンダー・フリーであると錯覚しているところなど、女性から見ると鼻に付きそうな部分だと思います[3]それに比べると「かわいい夫」に登場する「夫」は本当にジェンダー・フリーですよね。そして「自分は、女性に対して理解がある男」と言えてしまう加賀美に対してニキは冷めてしまうのかと思ったのですが、そうはならなかったところに恋愛の不思議を感じましたね。個人的には加賀美が写真家として仕事では成功することがなく、人間としての成長を果たしてニキと歩んでいくパターンも読みたくなってしまいました。
そんな訳で「ニキの屈辱」は映画を読むような淡いお話でした。山崎ナオコーラ氏の文章は基本的に淡々としているので、とても情景と合っていたと思います。爽やかさがあり読後感も良いので、満足度の高い読書になりました。
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