1941年、日本軍収容所から脱走した一人の捕虜が漂着したハイアイアイ群島。そこでは鼻で歩く一群の哺乳類=鼻行類が独自の進化を遂げていた―。多くの動物学者に衝撃を与え、世間を騒がせた驚くべき鼻行類の観察記録。
Amazon内容紹介より
随分と長いこと読みたかった一冊です。自分で読むことなく、読みたがっていた方にプレゼントしたことがあったのでとても気になっていました。その際にやはり相手が欲しがっていたとしても、自分で読んだことがない本はプレゼントするべきではないな、と痛感したものです[1]そもそも本をプレゼントする、と言うこと自体をあまりオススメしませんが…。とにかく今回、やっと自分で読めて良かったですね。
さて「鼻行類」はハイアイアイ群島で発見されたとされる独自の進化を遂げた生物群の生態を学術的に記述した本です。学術的に記述された本ですから、一般的には読み易くはない文章ではあると思いますが、多くの図も挿入されており、それらを眺めるだけでも楽しめるかと思います。読みにくい文章とは言え、文庫版で100ページ強の文量ですからそこまで読むのも苦労はしませんでした。
本書を読んでみて改めて思うのは、どこからどこまでが本当の情報なのか自分だけでは判断出来ないな、ということでした。そもそも本書に関してはすべてがフィクションという前情報があって読んでいるので、何となく「そんな訳ないよ…」という気持ちになって読んでいましたが、これがNATIONAL GEOGRAPHICなどのサイトに載っている情報であれば、あまり疑うことなく信じてしまっていたと思います[2]もちろん、だからこそ信用がおけるメディア、というものが大事になる訳ですが…[3]各種学術誌や論文の類までは読むことが難しいので、ナショジオ止まりです。
これは専門的な学習を積んでいない生物学という分野の本だから、という訳ではなく、自分の専門分野の文章であっても恐らくは大して変わらない反応を示してしまったことでしょう。その点で博士課程に進んで学んだような方たちは、摂取した情報の確度・信頼性というものを測る物差しを自分自身の中に持っていることや、一旦保留にして考えることを訓練出来ている方が多いなあ…と思うことが少なくないですね[4] … Continue reading。だからと言って、自分がそうなり得たか、というと難しかったでしょうから、こればかりは良い悪いではなくて物事に対する態度の差という他ないような気もします。
ところで日常的にインターネットに触れているとその重要性の有無は別にして、真偽不明の情報が星の数ほど見付かります。中には緊急性や重要性を煽っていたり、信じてしまいたくなるような方向に作り込まれた情報などもあったり、スパムメールの類が可愛く感じられるようなえげつない内容の物も数多くあります。古い時代のインターネットには、本書までのクオリティではないものの、かなり楽しめるフィクションであることを前提とした面白文章がたくさん転がっていたような気もしますが、現在一番有名かな、と思えるフィクション系である某サイトの内容やそれに対する批判などを見ても、本書のようなスタイルの楽しみ・風刺というのは在り方が難しい時代になってしまったのかもしれないな、と思ったりしました。
そんな訳で「鼻行類」は日常的に行う情報摂取に対する自分の態度に関して、改めて振り返るような読書になりました。また単純に眺めていて面白いので、この類の本が一定数存在していて欲しいとは思いますね。本書ほどのクオリティを創り上げるのは並大抵のことではないでしょうけれども。また、現代では同類の本を作るのはなかなか難しそうだな、とも同時に思いました。本書と並んで紹介されることが多いスイミーで有名な「レオ・レオニ」による「平行植物」もぜひ読んでみたいですね。
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