わたしは、わたしを見つけたい。19世紀フランス――パリ。『月から来たような』少女・セリーヌは、自分が何をしたいのかもわからない14歳。“先生”の教えだけを頼りに上京したパリで、偶然出会った老紳士から”職業を体験する職業”を勧められ……?19世紀パリ風俗を美しく描写する少女職業探訪記、ここに開演――。
Amazon内容紹介より
『河畔の街のセリーヌ』1巻の初版は2022年7月。タイトルの『セリーヌ』とは、表紙絵にもなっている椅子に座っている少女『セリーヌ・フランソワ』14歳。透明感があって意思が強そうなビジュアルをしていると思います。可愛いし、静かな佇まいがいいですね。舞台は19世紀フランスのパリ。帯にある『わたしは、わたしを見つけたい。』という文章を読むと現代人かな、とか思ってしまいますが、様々な職業にふれることで指針を失った『セリーヌ』さんが自分探しをする、というテーマなようです。
さて『河畔の街のセリーヌ』1巻です。Amazonさんの内容紹介にも『セリーヌ』さんのことを『月から来たような』と形容しています。これは『セリーヌ』さんが故郷であるルーアンの隣村で言われたと語っているエピソードが元になっているのですが、『セリーヌ』さんの出身地、19世紀フランスの「ルーアンの外れ」ではどういった宇宙観が一般的だったのでしょうかね。同時代のフランスで活躍した科学者で有名な人物だとキュリー夫人こと『マリ・キュリー』がいたりします[1]マリ・キュリーはポーランド人ではありますが…ので、もう一般市民にしてもある程度の現代的な科学知識が身に付いていたのでしょうかね。少し気になりました。漫画として19世紀パリの風俗を描いていくことを前提としているはずなので、きっとこの辺りのことも考証されていることでしょう[2]自分では特に調べませんでした。ただ、パリに来て7日目、仕事の初日にクビを言い渡されて、しかも平然としているように見えるのだから『月から来たような』人物なのでしょう。現代の14歳とは意味合いが違うとは思いますけれども、自分が14歳で東京に単身上京して同じ状況になったらきっと泣くしかないと思います…。
また『月から来たような』という表現と同様に気になった点とすれば、『セリーヌ』さんが表紙で「うちわ」を膝の上で持っているところ。この時代のパリで「うちわ」はどの程度メジャーなものだったのかなあ、とかも考えたのでした。見た目的にもいわゆるジャパニーズうちわで、扇子とは違うようです。年代的にはモネの『ラ・ジャポネーズ』、ルノワールの『うちわを持つ女』やマネの『団扇と婦人』と近いですし、19世紀後半のフランスではジャポニズムが流行しているのでパリの街中でも一般的に存在していた可能性はありそうですね。当然、完全なる日本製の物は数えるほどだったでしょうけれど。ただルーアンの隣村からパリに上京したばかりの14歳の少女の持ち物としては、いささか疑問ではあります。もちろん物語の仕掛人的な存在である老紳士『ルネ・フォンティーヌ』氏の部屋にあったものを『セリーヌ』さんが持っているだけ、というのもなくはないかな、とも思いますが。どちらにせよ、19世紀のパリの一般的な労働者の生活が自分のイメージしていたものよりも、より現代的だったように感じました。その辺り、自分の中でより知りたい欲求が芽生えたので、関連した本を読んでみたいなと思いましたね。
ところでお話の中で時々登場するいかにも漫画的な表現で考え込んだりキョトン顔をする『セリーヌ』さんがとても可愛いです。そのテイストの絵だけで『セリーヌ』さんが日常をすごすだけの4コマ漫画とかあったら読んでいて幸せになれそう…。老紳士『ルネ』氏も少しだけ似たような表現がありますし、他の登場人物たちにしても漫画的な表現で描かれることはないものの、表情の描写はとても魅力的でした。特に『セリーヌ』さんが百貨店で出会う『バロワン夫人 マリアンヌ』さんは色々な表情を見せてくれていました。P118右上のコマの表情はそのセリフとあいまって、とても素敵な生き生きとした人物像が描かれていたと思います。『マリアンヌ』さんがこの後どの程度登場するのかはわかりませんが、ぜひまた登場して欲しい人物になりました。今後も同じように魅力的な人物が続々と登場してくれるのを待ちたいと思います。
そんな訳で『河畔の街のセリーヌ』1巻は2巻以降が非常に楽しみに感じさせてくれる出だしだったと思います。『セリーヌ』さんはお話の中で語られている通り『作家 セリーヌ・フランソワ』となるようで、その着地点を1巻時点で明かしつつも、故郷でのお話にもまだまだエピソードがありそうで過去語りも楽しみです。歴史物語やフランス・パリの風俗に興味がある方にはとても楽しく読める漫画ではないかな、と思います。オススメです。
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