14世紀、イングランドとフランスの百年にわたる戦争が始まろうとしていた頃。金で雇われ、戦いを生業とする者達--傭兵が各地の戦場で活躍していた。“白鴉隊”という小さな傭兵隊を率いる若き傭兵隊長ジョン・ホークウッドは、一人の王子との出会いを機に、百年戦争という大きな戦いに巻き込まれてゆく……。
Amazon内容紹介より
まさかの突然の完結に長いこと積んでしまっていた「ホークウッド」の8巻をやっとのこと読みました。本当に完結してしまっていたのですね…。この漫画を読むようになってからWikipediaで主人公であるジョン・ホークウッドの項目を読んでいたので、百年戦争の後にはイタリアへ渡るのか、と想像してかなり楽しみにしていたのですが、打ち切られてしまったのでしょうかね…残念です。
さて「ホークウッド」は中世ヨーロッパに実在した傭兵であるジョン・ホークウッドを題材にした漫画です。舞台は百年戦争の前期と言えばいいでしょうか。フランスが数の上で優勢であったにもかかわらず大敗を喫したクレシーの戦いまでのお話です。ホークウッドは傭兵ですので、フランス側として戦ったりイングランド側として戦ったりしていて、一般的な漫画のような敵味方表現があまりないのが何とも言えずに好みですね。そもそも、この時代は傭兵だけではなくて、フランスにしてもイングランドにしても諸侯がその時々の戦いによって敵味方入り乱れていることが多い印象ですけれども。史実に基づいているとはいえ、敵味方がハッキリとわかり易い漫画を求められている方には、モヤモヤするのかもしれませんね。
漫画の後半になると、ホークウッドが傭兵部隊を率いて活躍するというよりは、その時代の主役であるエドワード・イングランド国王やシャルル・フランス国王やその周辺の人々がメインになることが少なくなかったので、もう少しタイトル通りにホークウッドの傭兵的な活動に寄り添った展開になれば、それによって戦闘場面が少なくなったとしても一般的な歴史物とは違った角度から描けたのでは、と思ってしまいました。ただ、そもそもジョン・ホークウッドと国王たちとでは、資料の数も相当違うでしょうから、史実に基づいた漫画になると厳しいところも多かったのでしょう。ちなみに作者のトミイ大塚氏が8巻のあとがきで「クレシーの戦いまで3巻で書く予定があった」と書いていますが、確かに3巻とまではいかないまでも、もう少し特に後半の戦闘シーンを削って描いた方がまとまっていたかも、と思いましたね。
ところで「ホークウッド」では騎士の時代との対比で傭兵の象徴としてのジョン・ホークウッドを通じて、騎士の時代の終わりを描きたかったようですが、百年戦争の終わりは騎士の時代の終わりと共に、諸領主の力が没落する始まりで王族の権力が更に強化されていく時代だったと思うのですけれども、王族の権力の強化という部分は少し描かれていたものの、諸侯の状況はそれほど説明がなかった気がします。一時期Paradox社のCrusader Kingsというゲームにハマっていたこともあったので、マイナー貴族の戦いとかも読みたかった気がしますね。もちろん、それをやり始めると前段に書いたホークウッドの傭兵的な活動からは少しずつ離れていってしまうとも思いますけれども…。難しいところですよね。
そんな訳で「ホークウッド」は騎士の時代の終わりを実在の傭兵「ジョン・ホークウッド」の視点で描くという興味深い内容だったものの、試みが成功したとは言い切れない終わり方をしてしまった漫画と言えるかもしれません。長く描いてれば面白くなった、とも言えない気がしますが、もう少し続きを読んでみたかったですね。個人的には、この漫画を通してジョン・ホークウッドにはかなり興味が湧いたので近いうちに『フィレンツェの傭兵隊長ジョン・ホークウッド』を読んでみたいと思います。
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