微小な細菌やウイルスなどの病原体が、そのときの政治や社会に与えた影響について、私たちの認識はどこかあやふやである。たとえば中世ヨーロッパに壊滅的な打撃を与えたペストについても、なぜ始まり、どのように終わったかについて、はっきりした結論が得られているわけではない。では、人類はその見えない恐怖にどう対処して来たのだろうか。そして、目の前の最大の脅威=新型インフルエンザとは何か。ハンセン病、ペスト、梅毒、結核、スペインかぜなど、人類史を大きく動かした感染症の歴史から、新型インフルエンザの脅威とその対策を考える。
Amazon内容紹介より
「世界史を変えた薬」を読んだあとに積み本を眺めてみると、本書が目に留まったので読んでみました。薬が世界史を変えたのであれば、感染症だって世界を動かしたり変えたりしているのは間違いないですよね。薬の歴史の浅さを考えると感染症の方がより古くから人間の歴史を動かしてきたと言っていいかもなあ、と、そんなことを考えながら読みました。ちなみに、この本もきっとタイトルで選んで積んでいたに違いありません。かなり長いこと積んであったようです。
さて「感染症は世界史を動かす」です。「世界史を変えた薬」に比べるとわりと世界史を教科書的にさらってくれます。そこが丁寧に感じる方もいるかもしれませんが、個人的には少し冗長に感じてしまいました。もう少し感染症の発生と伝播そして収束に絞って、その世界史的な意味を書いてあれば十分だったのに、とは思いましたね。もちろん、このくらい丁寧に書かれていた方が好みだ、という方もいらっしゃるかもしれませんが…。また文章は決して難しく書かれている訳ではないのにもかかわらず、若干読みにくいです。これは著者の問題というよりは編集の問題のような気がしますけれどもね。
「世界史を変えた薬」を読んで他の本でも読みたいと思っていた梅毒については本書では第3章で扱われていますが、その流行の拡大の仕方は見事としか言いようがありません[1]本書で扱われている感染症の拡大の仕方はどれもが見事ですけれども。梅毒の起源がどこかは確実なことはわからないようではありますけれども、コロンブスの航海から4半世紀のうちに日本までたどり着くというそのスピード感。15,6世紀という時代、交通手段も限られた中で、それでも人々の交流が世界規模で行われていた証拠でもありますよね。本書で語られている通り、交流の仕方は平和的な方法でないことも多いので、そのことによってより早く梅毒が拡大したのかもしれません。また何人かの文化人が梅毒であったことも書かれていますが、結核などに比べると少ないように思えるのはやはりその病気のイメージによるものでしょうかね。自分には梅毒よりも結核が良い、という感覚はよくわからないものなのですが…。
ところで「世界史を変えた薬」を読んで思いましたけれども本書を読んでも、当然のことではありますが人類と病との戦いはまだまだ終わりがなさそうだな、と改めて思いました。本書の6,7章では新型インフルエンザについての記述に大きな割合を割かれていて、約10年前の書籍ではあるものの専門家による警鐘には重みがあります[2]警鐘のならし方=書き方には少し疑問がなくはないですが…。毎年、冬になると鳥インフルエンザのニュースが流れますが、本書にも書かれている鳥インフルエンザの重大性はそれなりに理解しているつもりでも、ニュースをみる時にはボンヤリと殺処分される鳥たちが可哀想だなあ…という気持ちが先行してしまったりするのもいい加減改めなければな、と思いますね。
ただ、感染症と世界史に関しての本とすれば、6,7章の新型インフルエンザについての文量は少し多すぎる気がしました。著者の立場上、この部分が一番語りたいところであったようではありますが、もう少しバランスには気を付けて欲しかったかな、というのが正直なところです。
そんな訳で「感染症は世界史を動かす」は全体とすれば若干の読みにくさを感じる本ではありました。丁寧に歴史を記述してあるがゆえに読みにくくなってしまう、というのはもったいないので、もう少し何とかして欲しかったところです。繰り返しになりますが、これは著者の責任とは言えないと思います。ちなみに「世界史を変えた薬」も読むのであれば、順番的には本書を先に読むことをオススメしますよ。本書が感染症の収束部分についての記述が若干弱いので「世界史を変えた薬」はちょうど補完してくれる本になるかと思います。
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