後宮では賢さこそが美しさ。13世紀、地上最強の大帝国「モンゴル帝国」の捕虜となり、後宮に仕えることになった女・ファーティマは、当時世界最高レベルの医療技術や科学知識を誇るイランの出身。その知識と知恵を持ち、自分の才能を発揮できる世界を求めていたファーティマは、第2代皇帝・オゴタイの第6夫人でモンゴル帝国に複雑な思いを抱く女・ドレゲネと出会う──。歴史マンガの麒麟児・トマトスープが紡ぐ、大帝国を揺るがす女ふたりのモンゴル後宮譚!
Amazon内容紹介より
『天幕のジャードゥーガル』1巻の初版は2022年8月。2022年現在『ダンピアのおいしい冒険』も連載中の『トマトスープ』氏の作品。『天幕のジャードゥーガル』の主人公は『ファーティマ』と名乗る女性。『ダンピア』に続いて、こちらも歴史上の人物です。ちなみに以下のサイトで1話から3話と最新6話分を読むことができます。どんな内容か気になる方は読んで見ることをオススメしますよ。自分はコミックス派なので最新話の方は我慢です。
さて『天幕のジャードゥーガル』1巻です。『ダンピアのおいしい冒険』と同様に史実を下敷きとしたお話です。自分は主人公の『ファーティマ・ハトゥン』のことをこの漫画で初めて知りました。そもそもモンゴル帝国の歴史というものをそれほど学んだことがないので、歴代の皇帝の名前や日本と関係のあった歴史的な出来事程度しか知りませんでした。もちろん広大な版図を有する帝国で、強制的なものも含めて大陸をまたぐ交流があったことは知識としてはありましたけれども、そこにはこの『ファーティマ』のようなドラマをもった人物が少なからず存在していた、ということまでには思い至っていなかったですね。そういう時代だったと言えばそれまでなので、あまり現代的な感覚で考える必要もないかとは思いますが、それでも『天幕のジャードゥーガル』1巻の最初から奴隷として始まり、その生活の中での幸せも破壊し尽くされている様は、やはりなかなかにシンドいです。
ただ、そんなシンドいお話の中でも『ファーティマ』の幼少期である『シタラ』ちゃんの「ニコッ」「ニコォ」はなかなか衝撃的な可愛さでした。その可愛い顔からの帯裏側にもあるP18の「勉強イヤ!かわいい顔ももうしない!」の意思が強い顔への変化もたまりませんでしたね。これはまさに魔女の幼少期だなあ、とか思わされました。とりあえず、なかなかシンドい内容の中で『シタラ』ちゃんが可愛いのと、基本的にポップな絵柄なので辛くなりすぎずに済みました。これは『シタラ』ちゃん以外のキャラクターも同様で、モンゴル帝国の皇子たちもビジュアルは可愛らしいです。漫画的にはきっとこの後もそれなりに重い話が多そうなので、絵柄の可愛らしさは個人的には安心感があります。これで絵柄がリアルすぎると、ちょっとシンドすぎて読むことも難しくなる可能性がありますからね。
ところで『天幕のジャードゥーガル』というタイトルの「ジャードゥーガル」とはどういった意味なのでしょうか。チラッと調べてみたところ一般的には「ジャドゥガル」と言われることが多いのかもしれません。「奇術師」とか「マジシャン」とかいう意味で使われることが多いよう。調べる前は「魔女」という意味合いで使っているのかな、と思ったのですが、違ったようです。ただ、ニュアンスとしてはかなり近いですよね。なにせ『天幕のジャードゥーガル』の英語タイトルは『A Witch’s Life in Mongol』ですからね[1]英語タイトルというよりは副題なのかもしれませんが…。言語としてはヒンディー語でも似たような発声になる、ということはわかりましたが、ペルシャ語は読めませんでした。ただ恐らくですが『シタラ』ちゃんの母語はペルシャ語のはずですので、このタイトルもペルシャ語として使っているのではないのかなと想像します。そして、そこで「奇術師」という意味のモンゴル語を使わずにペルシャ語をタイトルとして使った意味に思いを馳せたいですよね。この漫画がどういったスタンスで進行していくのか、ということを割りと象徴しているように思います。なにせタイトルですからね。
【Google 翻訳 – 奇術師(日本→ヒンディー語)】
【Google 翻訳 – 奇術師(日本→ペルシャ語)】
そんな訳で『天幕のジャードゥーガル』1巻は2巻以降が本当に楽しみになるものになりました。『ダンピアのおいしい冒険』もそうですが、本当に知的好奇心をくすぐってくるお話が上手だなあ、と思わされます。『天幕のジャードゥーガル』2巻も今から楽しみですけれども、モンゴル帝国の歴史を読む楽しみもできたような気がします。とてもオススメ。
References
↑1 | 英語タイトルというよりは副題なのかもしれませんが… |
---|
コメント